【Drum Sound Making Conceptions】
ドラムサウンドは、ドラムセット本体のキャラクター、使用するドラムヘッド(皮)、ドラマーのキャラクター、スタジオの響き、エンジニアさんの音作り(使用するマイク、エンジニアリング)が複合的に融合して作られると思います。
同じドラムセット&チューニングでも上記の音楽的環境や、その楽曲のアレンジ&他の楽器の音色や曲調によっても違って聴こえます。
私がドラムサウンドを作る場合、大きく分けて下記の2パターンのアプローチをします。
【〈ドラムセットありき〉の場合】
バンドのドラマーが所有するドラムセットは、そのバンドのライブでは欠かせないもので、バンドメンバーにとっても「聴き慣れたサウンド」でありますので、このドラムセットをレコーディングでも使用したいというアーティストも少なくありません。
ライブで使用するドラムセットを音源でも使用する事によって、ライブと音源の統一感を出す事が出来ます。
この〈ドラムセットありき〉の場合、私はスネアドラムとシンバル類、ドラムヘッドの選択肢を持参して音作りをします。
スネアドラムは、ドラムセットの中心的存在です。
ドラムサウンドにおいて「一番わかりやすい音」がスネアであり、ドラムサウンドの中心的キャラクターとなります。
ドラムセットが同じセットでもスネアドラムを変える事によってドラムサウンドのキャラは大きく変わりますので、色々なキャラクターを持つスネアドラムを選択肢として持参します。
スネアだけでなく、ドラムヘッドを変更するだけでもキャラは違って聴こえますので、ドラムヘッドの選択肢も欠かせません。
そして、ハイハットシンバル、ライドシンバルというビートを刻むシンバルの選択肢も重要です。
ドラムの中でビートを刻む3点(バスドラム、スネア、ハイハット)のバランスが最も重要で、ハイハットの音質、特にピッチ感(音程)がセレクトしたバスドラムとスネアと一体になった時にバランスが良いか?・・という事を大切にしています。
ライドシンバルも同様です。ライドを使用する楽曲のセクションで、どう聴こえるかで判断します。スティックのチップで奇麗に鳴らすアプローチと、ロックミュージックで王道のライドのエッジを激しく鳴らすアプローチなど、それぞれに相応しいキャラクターを持ったライドをチョイスします。
このような形で選択肢がある事によって、同じドラムセットでも色々な楽曲や録り方に対応しております。
【〈楽曲ありき〉の場合】
ソロアーティストのレコーディングやバンドの場合でも、「その楽曲に最も相応しいドラムを使用する」という〈楽曲ありき〉の現場があり、私にオファーがあるレコーディングはこちらのほうが多いです。
〈楽曲ありき〉の場合、事前にデモ音源をクライアントから頂き、プロデューサー/サウンドプロデューサー/アレンジャー/バンドリーダーの方など、その楽曲のサウンドに関してイニシアティブをとる方に「どんなドラムサウンドにしたいか?」のリクエストを頂きます。
とても具体的にリファレンス音源やイメージを伝えて下さるタイプの方や、ざっくりとしたイメージを一言でリクエストされる方もいらっしゃいます。
どちらの場合も、リクエストされたイメージを汲み取り、「どの楽器をチョイスするか?」の判断に最も集中して考えるよう心がけております。
ドラムサウンドを言葉で表現すると、その表現は擬声語となり「パーン!」とか「カーン!」とか「ダシッ!」など様々で、その表現は人によって異なりますので、現場のプロデューサーの方と共通用語を見つける事を現場では大切にしています。
上記のような事前のヒアリングでドラムサウンドをイメージしてドラムセット
とドラムヘッドをチョイスして準備して、スネアドラム、シンバルの選択肢を
用意して現場に入り、あとはプロデューサー、エンジニア、ドラマーとコミュニケーションしながらドラムサウンドを作ってゆきます。
【ドラマーとコントロールルームの良き架け橋に】
ドラムテックの仕事はまず「音作り」です。アーティストやプロデューサーのイメージするドラムサウンドをなるべく早く作り、ドラムトラックのレコーディングをよりスムーズに進行するようサポートし、1日のレコーディングスケジュール進行に余裕を持たせる事を心がけています。
レコーディングにおいては、ドラマーのいるレコーディングブースとエンジニア&プロデューサーがいるコントロールルームが分かれていて、マイクとヘッドフォンを使用してのコミュニケーションになります。
リズムレコーディングは、初期段階で仮に録音したサウンドを聴きながら、
プロデューサーやアーティストのイメージするサウンドを確認してドラムセットを調整、また仮録りして確認〜調整を繰り返します。
ドラマー自身で音作りをする場合、この作業をひとりでやらねばなりませんのでドラムサウンドが上手く決まらないと、ドラマー自身が何度もレコーディングブースとコントロールルームを往復する事となり、レコーディング本番の時点では疲れてしまう・・という事がありますが、ドラムテックがいると、その役割をドラムテックが担うので、ドラマーは安心してプレイに集中出来ます。
ドラムサウンドが決まった後は、作ったドラムサウンドがレコーディングのテイクを重ねてもチューニングの弛みなどを含めサウンドが安定しているか・・をコントロールルームで見守ります。
レコーディング本番はドラマーにとって、とても集中せねばならない時ですし、とてもデリケートな時間です。
色々なコンディションが整いスムーズにOKテイクが録れる場合も多いですが、時にはプロデューサーの意図とドラマーのイメージが一致しなかったり、ドラマー自身のコンディションが悪かったりして良いテイクが録れない場合があります。
ドラマーはレコーディングモードになると、自身のプレイを客観的に見れなくなるほど楽曲や自身の世界に入り込んでしまうものであると思います。
コントロールルームでドラムテックとして見守っている私は、ドラマーとは逆に冷静にドラマーのプレイや叩いている音を判断出来る環境にいますし、それに対してプロデューサーがどう反応しているかもわかる立場にいます。
私はプレイヤー出身でもありドラマーのトレーニングも行っていますので、そういうシチュエーションの場合は、ドラマーのブースに行って、ドラムアレンジやフレーズ構成などを含め、ドラマーにアドバイスもしたり激励したりもします。野球で例えるなら、ピンチに立たされたピッチャーに駆け寄ってゆくコーチのような感じです(笑)。
私の目指すドラムテックのスタイルは、「ドラマーにとって一番の理解者&サポーターであり、プロデューサーを含めた制作スタッフさんのリクエストを的確に理解し、より早く、より高いクオリティでドラムサウンドを具現化出来るプロフェッショナル」でありたいと思い、「コントロールルームとドラマーの良き架け橋になる事」を心がけております。